【幸せを紡ぐ物語】
10.32024
物語【恋人】
私の愛は砂のようです。
無数にあるのに、すくい取ろうとしても指の間から滑り落ち、手のひらには一粒も残らない。
サラサラとかすかな音を立て、風に舞って消えていきます。
ある日、私はあなたと出会いました。
あなたは両手を広げ、私の愛を受け止めようとしたけれど、それはいつも砂のように風に舞い、一瞬にして日常の空気に紛れてしまいます。
砂が消えた手のひらを見ても、その愛が、存在したことさえわかりません。
・
あきらめることなく両手を広げるあなたと、儚く消えていくゆく砂。
一粒の砂さえも残らないあなたの手のひらを見て、私は時折悲しみの涙を流しました。
その涙に濡れた砂は黒い小さな塊になり、あなたはそれを拾うと大切そうに胸のポケットにしまいました。
ある日、あなたは呆然と立ち尽くしていました。
あなたの周りは、指の間から滑り落ちた乾いた砂で埋まり、あなたはその真ん中でただ一人、無力感と戦っていました。
いくら受け止めようとしても、指の間から消え続けて行く砂。
あなたの瞳から希望の光が消えかけていました。
・
そんなあなたの姿に、まるで暗闇に光が差し込むかのように愛おしさがこみ上げ、私の頬をあたたかい涙がつたいました。
私は、砂に足をとられながら、立ち尽くすあなたのもとへ駆け寄りました。
手のひらから滑り落ち、あなたのまわりを埋め尽くした砂、それは私の愛です。
あなたが立っている場所は、私の愛の真ん中です。
どうぞ素足になって、足跡をつけてください。
・
終わり
〈絵と文/松本圭〉
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