【幸せを紡ぐ物語】
7.42022
物語【春を待つ日】第3話
この国では短い春の間、あちこちでお祭りが催されます。
仕事が休みの日、カフェで出会った青年を町のお祭りに案内することにしました。
お祭りの会場は、町の人たちだけではなく、近隣の国から稼ぎにきた大道芸人たちや観光客で賑わっています。
私はアイスクリームの出店でバニラのアイスを二つ買うと、そのひとつを青年に差し出しました。
青年は女の子にごちそうしてもらったからか一瞬戸惑いながら受け取ると、照れくさそうな笑顔を見せました。
「アイスクリームを食べるにはまだ肌寒いようだけど」
「そうね、でもこの国には夏は来ないから。暖かい季節に楽しむことは、春の間にすべて楽しむのよ」
若者はアイスクリームを手に持ったまま何事か思案しているようでした。
私たちはお祭り会場のフェンスに並んで寄りかかり、アイスを食べました。
「この国の春の季節だけを見て気に入った、なんて言ってもダメよ。
長くて寒い冬の時期を知ったらうんざりするわ」
「じゃあなんで君はこの国から出て行かないのかい?」
「そうね…。この国が私が生まれた国だからかな。
けっして住み心地の良い国ではないけど、私の故郷なの」
…第4話へ続く
〈絵と文/松本圭〉
・・・◆・・・◆・・・◆・・・