【幸せを紡ぐ物語】
6.202022
物語【春を待つ日】第1話
この国は春と冬、二つの季節しかありません。
9ヶ月に及ぶ長い長い凍える季節が終わると、いっせいに草花が咲き、虫たちがもぞもぞと土からはい出し、短く美しい春の訪れを告げます。
この国の人たちは、短い春の季節を待ち望んで寒い冬の季節を静かに過ごすのです。
1年の大半を寒さに耐えて過ごす人々にとって、春はまるでお祭りのような季節。
会えない時も恋いこがれ、思いを募らせる恋人との再会のように、暖かい季節を歓びと開放感とともに過ごします。
そして、短い春が過ぎると人々はまた重いコートに身を包み、心を寄せ合いながら春を待つのです。
昨年の春の始まり、私はカフェでコーヒーを運ぶ毎日を過ごしていました。
だんだんと気温が高くなり、日差しの温かさが感じられる日も多くなり、春を待ち望んでいる人たちの心もウキウキと弾んでいるようです。
カフェのテラステーブルでは、まだ少し肌寒いと言うのに、アイスコーヒーを頼む気の早いお客さんもいました。
…第2話へ続く
〈絵と文/松本圭〉
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