【幸せを紡ぐ物語】

物語【in blue】

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濁った都会の海の、深い深い底。
その深さが汚れを消し去った後には限り無いブルー。
この都会の海の底に、人魚が住んでいました。

人魚は、今日も海面に浮かび人間たちのドラマを垣間みています。
立ち並ぶ高層ビル、水面に写る深夜でも消えないビルの明かり、時間を忘れて働くビジネスマン。

もう深夜になろうと言う頃、一人の男性がビルの一つから出てきました。

 

「あ、またあの人だわ」
人魚は高層ビル群から繋がる海沿いの公園に目をやりました。
男性は毎晩のように遅い時間、仕事を終えるとこの海沿いの公園のベンチで、ほんの10分だけ物思いに耽ってから帰宅するのです。

男性は今夜も、自動販売機でコーヒーを買うと、ベンチに座り疲れた様子で一息つきました。
夜のぬるい風に吹かれなから、ネクタイを緩めて海を眺めています。

人魚は海の泡を手ですくい、ふうっと息を吹きかけました。
海の泡は風に乗って男性のところまで飛んで行き、ぱちんとはじけました。

潮の香りの風が優しく男性の髪を撫ぜました。

 

ある日人魚が公園を見ると、いつも男性が休んでいるベンチに女の人が座っていました。
しばらくすると高層ビルからあの男性が出てきて、その女の人と何か話し込んでいます。
「あの人の恋人だわ」
人魚はちょっぴり胸が痛みました。
やがて、陸からはなれた人魚のところまで「ドン」という音が聞こえそうな勢いで、女の人が男性の胸を突き、そのまま走って行ってしまいました。

男性はしばらく立ち尽くした後、いつものベンチに座り無表情に海を眺めています。
人魚は海の泡を手ですくい、ふうっと息を吹きかけました。
海の泡は風に乗って男性のところまで飛んで行き、ぱちんとはじけました。

潮の香りの風が優しく男性の頬を撫ぜました。

 

途切れない日常と非日常。
海の底の透明感と静けさの中で漂う人魚は、日常も非日常も知りません。
濁った海面から見るあの人は、なぜ恋人を失ってまで働くのでしょう。
涙も一時のドラマも、何もなかったかのように海はさざめいています。

 

次の日、人魚がまた高層ビル群を眺めていると、あの男性が出てきて海沿いの公園にやってきました。
いつものベンチに座る男性の手には赤いバラが一輪握られています。
「あの女の人と仲直りしたのね」
人魚はぼんやりと男性の姿を眺めていました。
すると…、男性はベンチから立ち上がり、海の間近まで歩いてくると海に向かって赤いバラを投げました。
人魚ははっとして、ざぶんと海に潜って泳ぐと、男性が投げたバラを拾いました。

人魚はしっかりとバラを握ると、片方の手で海の泡をすくい、ふうっと息を吹きかけました。
海の泡は風に乗って男性のところまで飛んで行き、ぱちんとはじけました。

潮の香りの風が優しく男性の唇を撫ぜました。

終わり〈絵と文/松本圭〉
☆お読みいただきありがとうございました☆

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