【幸せを紡ぐ物語】
12.232024
物語【月夜のできごと】
ある三日月がキレイな晩のことです。
この家に住んでいる、パパとママとお嬢ちゃんと坊やはすやすやと夢の中。
窓辺に置かれたママのお気に入りの瓶やグラスが、月明かりに照らされて薄い影を作っています。
その瓶の間から、勝ち気そうな顔をした小さな小さな女の子がひょっこりと顔を出しました。
女の子はまるで舞台のダンサーのように、窓辺でくるりと一回り…。
月明かりに照らされたリビングルームは夜の静けさに満ちています。
しめしめ、みんなすやすや眠っているぞ、さて、今夜はどんなお楽しみをしようかな?
眠っている坊やのお顔にひげを描こうかな?
そうだ、お嬢ちゃんの大事なお人形のドレスを着ちゃおう。
それから、ママの大切なアクセサリーを失敬して、とってもおしゃれな淑女になって、パパの大きなおなかの上で、舞踏会のように踊ろうかしら?
・
月夜の主役はこの私。
女の子が我が物顔で家の中を物色していると、どこかで小さな声がしました。
「ママ…」
坊やが眠たげに目をこすりながらリビングに入ってきました。
「ちぇっ、また坊やが起きちゃった」
女の子は舌打ちをしました。
まだ小さい坊やは、こうして時々夜中に目を覚まし、女の子のお楽しみを邪魔するのです。
坊やがパパとママのベッドルームへ行く前に、もう一度眠りについてもらわなきゃ。
「ママが起きて来たら、お楽しみの時間が台無しだわ」
ここが私の腕の見せどころ。
「小さな坊や、ほうら、窓辺を見てごらん」
坊やよりも遥かに小さい女の子が呼びました。
寝ぼけ眼の坊やが窓辺を見ると、お月様の光に照らされて小さな女の子が手を上げてあいさつしています。
・
「さあ、今から素敵なショーをご覧にいれますよ。なんたってここは夢の中。」
女の子はそういうと軽やかにダンスを踊り始めました。
夜中に一人目を覚まし不安で泣き出しそうだった男の子ですが、ママを呼びに行くのも忘れてダンスに見とれています。
ダンスを踊り終わって深々とお辞儀をした女の子は坊やに言いました。
「楽しいショーの続きはベットの中でどうぞ」
すっかり楽しい気持ちになった坊やは、女の子に言われるままに自分のベットにもどり、あっという間にスヤスヤ寝息を立て始めました。
みんな朝まで夢の中、見ているのは三日月だけ。
「私のお楽しみはこれからよ」
さあさあ、ショータイムの続きが始まりますよ。
・
終わり〈絵と文/松本圭〉
☆お読みいただきありがとうございました☆
・・・◆・・・◆・・・◆・・・