【幸せを紡ぐ物語】
11.192024
物語【どこかで誰かが】
月の綺麗な夜、もう真夜中になろうという頃のことです。
ある街で1人の少女が寝つけずに夜空を見上げていました。
少女は、昼間は通りのはずれのパン屋で、バターたっぷりのクロワッサンや甘い香りのジャムが乗ったデニッシュパンを売る仕事をして、この街で一人で暮らしています。
お店のご主人もおかみさんも親切にしてくれるし、お客さんに美味しいパンを喜んでもらえるこの仕事を気に入っています。
けれど、家に帰って1人で過ごす時間、時々夜がとても長く感じてしまうのです。
今夜もそんなひとりぼっちの夜。
店から帰ると、おかみさんが持たせてくれたパンと野菜のスープで夕食をすませ、何をするでもなくあっというまに夜は更けて行きます。
「明日も朝早いし、もう眠らなくちゃ」
そう思うのだけれど、目は冴えるばかり。
小さなベランダからそっと見下ろす街は灯りがすっかり消えて、世界中で自分だけが一人のような気がしてしまいます。
そんな眠れぬ夜を過ごす少女に、お月さまが語りかけました。
「この広い世界にはね…
あなたと同じように眠れぬ夜を過ごす人がいて、今この瞬間あなたと同じように私を見上げていますよ。
あなたが寂しいとき。
世界中で自分だけがひとりぼっちのような気がしてしまうとき。
あなたと同じように寂しさを抱えている人たちがどこかにいるの。
あなたはその人たちと同じ思いで繋がっているんですよ。」
世界中で自分だけが一人のような気がしていたけれど、この世界のどこかにいる誰かと、心は通じている…。
少女の心の中に、お月さまの穏やかな輝きのような優しい温もりが、ふんわりと広がっていきました。
「お月さま、どうかその人たちに伝えてください。どうぞ暖かくして眠ってください。って」
お休みなさい、お月さま。
おやすみなさい、どこかにいる私の友達。
明日も素敵な一日になりますように。
終わり〈絵と文/松本圭〉
☆お読みいただきありがとうございました☆
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