【幸せを紡ぐ物語】&【創作レッスン】
1.302026
【物語】静かな物語

誰も知らない森の中。
外の世界から森を守るかのように高い木々が立ち並び、木漏れ日が当たる地面は草に覆われ、いつもしっとりと湿り気を帯びています。
その地面の下の土の中は、柔らかくて暖かくて、居心地の良い暗闇。
私はこの森の地面の中で、孵化する時を待っています。
眠ったり目覚めたり、ウトウトしてはまた眠り、たくさんの時が流れて、この頃はだんだんと目覚めている時間が長くなってきました。
静かな静かな森の中…
暖かい土の温もりに守られてぼんやりと時を過ごしていると、時々地面の外から誰かの話し声が聞こえてきます。
・
ざわざわざわざわ…木々の声。
まだまだ風が冷たいね。
今日は特に冷えること。
森の中の生き物たちは寒くはないかしら。
さあ、今日もこの森を守りましょう。
ひそひそひそひそ…生き物たちの話し声。
まだまだ春は遠くだね。
今日のご飯は大丈夫?
あら、食べ物がなかったらウチのどんぐりをおすそ分けするわ。
あと少し、力を合わせて春を待ちましょう。
・
ホウホウホウホウ…森の神様の語る声。
ほらほら春はもうすぐですよ。
森の生き物たち、もう少しの辛抱です。
土の中で眠るものたち、目覚めの時が近づいていますよ。
私には新しい季節の足音が聞こえています。
そよそよそよそよ…風の声。
さあさあ、南の風がやってきましたよ。
木よ、草よ、花よ、動物たちよ、虫たちよ、新しい季節の始まりです。
土の中で眠るものたちよ、目覚めの時がやってきました。
世界があなたを待っていますよ。
・
この森に春が来ました。
居心地の良い土の中から旅立つ時がやってきたのです。
土の外はどんな匂いがするのかしら?
どんな風が吹いているのかしら?
土の中から這い出た私は、生まれて初めて羽を広げ、まだ少し冷たい春の空気を吸い込みました。
今、世界のすべてが、私に手を差し伸べています。
さあ、どこへ飛んで行こう。
終わり
〈絵と文/松本圭・物語制作2016年〉
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