【幸せを紡ぐ物語】&【創作レッスン】
8.142026
【物語】夏の終わり

About story
小さな島で退屈な日常を過ごす私は、ある夏、都会から来た女の人と友だちになり…
Story
この島と対岸の街をつなぐのは、1日たった1往復の船便だけ。
そんな小さな離れ小島で、私は暮らしていました。
学校の友だちは小学校一年生のときからずっと同じ顔ぶれで、まるで兄弟のように育ち、島全体が一つの家族のようです。
その親密さが子ども時代の穏やかな日常と安心感をくれていたとは思うけど、私はだんだんとつまらなくなっていました。
私はよく、島の人たちがあまり足を運ばない小高い丘から、海の向こうを眺めていました。
お天気が良い日には、遠くにかすかに見える対岸の街のビルが、陽炎のようにぼんやりと形を現します。
私は1人で見知らぬ街を眺めては、都会で繰り広げられるドラマを思い描いていました。
ある夏のこと、一日一度の船便に乗って一人の女の人が島へ降り立ち、暮らし始めました。
ときおり物好きな旅人がやってくるけれど、この島へ外からの人が住み着くことは滅多にありません。
島の人たちは戸惑い、女の人とは距離を置くように過ごしていました。
ある日、私がいつものように小高い丘へ行くと、その女の人が座って海を眺めていました。
涼しげなサマードレスを着て、首には小さな石が連なったネックレス、島の女性たちなら気にもとめない日焼けを気にしているのか、白い日傘をさしていました。
その人は私に向かってにっこりと微笑みました。
私は思いがけないできことに胸がドキドキしましたが、その人の人懐っこい笑顔に思わず微笑み返しました。
そして私たちは友達になりました。
約束をしていたわけではないけれど、私たちはたびたびの見える丘で会いました。
女の人は、外国の映画の話、私にはまだ難しい小説の話、ファッションやおしゃれの話、いろいろな話を聞かせてくれました。
時には何も話さずに海を眺めていることもありました。
私は対岸の街のことを何度か聞いたけど、女の人は静かに笑って答えませんでした。
女の人が笑うと不思議な色の石が連なったネックスレスが揺れ、太陽の光を反射してきらめきました。
女の人は時々、小さなバスケットに二人分の冷たい飲み物と私が見たことのないお菓子を持ってきてくれました。
大きな木の陰で二人で並んで海を見ながら、都会の味がするお菓子を食べるひとときは、私を大人になったような気にさせてくれました。
だんだんと海が見える丘へ行く楽しみは、対岸の町を眺めることではなくて、その人に会うことへ変わって行きました。
もう夏が終わろうというある日、私が海の見える丘へ行くと、女の人はいませんでした。
いつも2人で並んで海を見た木陰はただ風が吹き抜け、ざわざわと木の葉たちが揺れています。
約束をしているわけでもないし、いつも会うわけではなかったけれど、妙な胸騒ぎを覚えて私は辺りを見回しました。
木陰の木の枝に、女の人のネックレスがぶら下がっているのが目に入りました。
ネックレスを手に取った私は、女の人がもうこの島にいないことを知りました。
ふと海の向こうに目をやると、よく晴れ渡った空の向こう、対岸の街が陽炎のように揺れています。
丘の片隅では早咲きのコスモスが揺れ、気の早い夏の終わりを告げていました。
終わり
〈絵と文/松本圭・物語制作2016年〉
お読みいただきありがとうございました
幸せを紡ぐ絵無料メルマガ
アートや創作について、クリエイティブに生きるヒント、松本圭のアート講座・展示情報などをお届けしています。ご登録はこちら▽









