【幸せを紡ぐ物語】&【創作レッスン】
2.282026
【物語】見知らぬ雨

About story
雨の日も晴れの日も、春夏秋冬、歩き続ける。転んでは立ち上がり、ただひたすらに約束の地を目指して。
Story
ある街を、女の子が1人歩いていました。
足もとの石畳は雨に濡れ、通りを行く人々は足早に家路を急いでいます。
女の子にとっては初めて訪れる街。
まるで降りしきる雨さえも、見知らぬ他人の顔をしているようです。
女の子は身の回りのものが入った鞄を背負い直すと、冷えた手に息を吹きかけました。
通りの家々の窓からは、暖かそうな明かりが漏れています。
家の中からは、子どもたちの笑い声がかすかに聞こえ、おいしそうなスープの香りが漂ってきました。
そんな幸せそうな光景には目を向けず、石畳の石の数を数えるように女の子は歩き続けていました。
女の子の鞄には小さな花の種が入っています。
お母さんが大切に大切に育てていた花の種です。
女の子は旅に疲れると足を止め、鞄から種が入った小さな包みを取り出し見つめました。
女の子は歩き続けました。
街を過ぎ、山を越え、谷をわたり…。
輝く太陽の下を、嵐のような風の中を、そよ吹く風に髪をなびかせ、時には冷たい雨に打たれ。
ある夜は出会った友と語らい、朝には新しい別れに胸を痛めました。
体いっぱいに自由を感じ、また、一人の淋しさに打ち震える時もありました。
春。
女の子は咲き誇る花とともに歩きました。
夏。
太陽の力強い日差しを浴びると、歩き続ける勇気がみなぎりました。
秋。
色づいた木の葉たちは、季節が巡ることを告げてくれました。
そして冬。
女の子は降りしきる雪の中、静かに歩き続けました。
女の子が歩く道々に、ふわりふわりと雪が舞っていました。
だんだんと雪は強まり、女の子の肩に降り積もります。
吹雪の中を転んでは立ち上がり、転んでは立ち上がり、女の子はただひたすらに歩き続けました。
誰も足跡をつけていない雪に、女の子の足跡だけが点々と道をつないでいました。
いくつかの夜が過ぎ、やがて、雪の上に続いていた女の子の足跡が途切れました。
森の中の雪道のところどころ、茶色い地面が顔を出し、女の子の足跡は雪解けの土に包み込まれて消えていました。
春がやってきたのです。
背の高い木の上から、とけだした雪がバサリと音を立てて落ちました。
木々の間から木漏れ日が差し込み、ここが約束の場所であることを告げています。
女の子はふと立ち止まり、鞄からお母さんが大切に育てていた花の種をとり出すと、雪解けの土に埋めました。
顔を上げると、真冬の冷たさとは違う柔らかい風が頬を撫ぜました。
その風はまるでお母さんの手のような、優しいぬくもりがありました。
女の子は立ち上がり、新しい季節の中をまた、歩き続けて行きました。
終わり
〈絵と文/松本圭・制作2016年頃〉
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