【幸せを紡ぐ物語】

物語【喝采】後編

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そんなある日、もう日が暮れた頃、空き地で1人歌う女に声をかけるものがいた。
声をかけてきたのはクラシックなスーツに身を包んだ上品な紳士で、この近くにある高級クラブのオーナーだと自己紹介をした。
紳士は女の歌を賞賛し、自分の店の歌手として舞台に立たないか、と誘ってきたのだ。
女は飛び上がって喜び、一も二もなくその申し出を受けた。

「この空き地の近くにそんな高級クラブがあったかしら?」
そんな疑問が一瞬頭をよぎったけれど、歌えるのであれば、そこがどこであろうとかまわない。
自分の歌声を聞いてもらえるのであれば、それが誰であろうとかまわない。

それから毎晩、こうして店の舞台で歌い続けている。

今夜も日付が変わる頃になると客たちが集まり、店の中は上品な賑わいに満ちあふれた。
グラスをかたむけながら語り合う紳士淑女、女性たちの軽やかな笑い声が店の空気を楽しげに揺らしている。
しばらくすると、店のオーナーが客たちに静粛を求め、1人の歌い手が舞台に現れた。

万雷の拍手の向こう、きらびやかなドレスの向こうの顔が見えることはない。
軽く膝を曲げて挨拶をすると、舞台の上の女は深い声で歌い始めた。

女は知っている。
この店の客たちが墓場で眠る亡霊だということを。
街のものたちが存在さえ知らないこの店で、自分が永遠に歌い続けなくてはならないことを。
「私は歌い続ける。けれど、私の魂は亡霊に奪われはしない。私の魂は歌の中にあるのだから」

喝采。
その輝きの影で、大きな悲しみとともに何かを失ったのかもしれない。
それでもなお、歌声とともに輝こうとする女を、天使たちは祝福することだろう。

終わり〈絵と文/松本圭・2016年制作〉

☆お読みいただきありがとうございました☆

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