【幸せを紡ぐ物語】&【創作レッスン】
6.272026
【物語】ガーベラ

About story
花屋の店先に並んでいるガーベラ。
今日はどんな出会いと物語があるのでしょう?
Story
私は花です。ガーベラです。
町の小さなお花屋さんに並んでいます。
私は今日、どなたのお家に飾られるのかしら。
夕方、白髪まじりの紳士がお店の前で足を止め、私を選んでくれました。
私を抱える紳士のグレーのスーツからは、一日中働いた人の匂いがしました。
今日は奥様との記念日かしら?
家に戻った紳士は、真っ先に私を飾り気のない花瓶に生けてくれました。
そして、笑顔の女性が写った白黒写真の横に、そっと飾りました。
部屋着に着替えた紳士は、出来合いのお惣菜を盛ったお皿をテーブルに並べると、グラスにビールを注ぎ、写真に向かって軽く持ち上げました。
今日も一日お疲れ様でした。
私はあなたのために、明日の朝も可憐に咲きましょう。
・
私は花です。ガーベラです。
町の小さなお花屋さんに並んでいます。
私は今日、どなたのお家に飾られるのかしら。
土曜の午後、小学生くらいの男の子がお店にやってきて、ずいぶんと長い間考えたすえ、私を選んでくれました。
私を抱えて走る男の子のシャツからは汗の匂いがしました。
もしかして、初恋のお相手でもいるのかしら?
家に戻った男の子は、コップを三つだしてきて、一輪ずつ生けてくれました。
そして、狭いアパートの玄関に一輪、台所に一輪、食卓に一輪飾りました。
しばらくすると、お母さんが仕事から帰ってきました。
玄関で靴を脱ごうとしていたお母さんの目に入ったのは、一輪のガーベラ。
急いで夕飯の支度をしなくては、と台所へ行ったお母さんの目に入ったのは、また一輪のガーベラ。
そして、食卓には一輪のガーベラと電子レンジで温めたホットケーキが用意され、照れ臭そうな男の子が立っていました。
お母さん、お誕生日おめでとう。
私はあなたたちのために、明日の朝も可憐に咲きましょう。
・
私は花です。ガーベラです。
町の小さなお花屋さんに並んでいます。
私は今日、どなたのお家に飾られるのかしら。
日曜日の昼過ぎ、若い女性がお店にやってきて、私を選んでくれました。
私を抱える女性のブラウスからは、甘い香水の香りがしました。
もしかして、これからデートかしら?
ワンルームのマンションの部屋に戻った女性は、可愛らしいガラスの花瓶に私を生けてくれました。
そして、一人暮らしらしいちいさなテーブルにそっと飾りました。
女性は紅茶を入れて、冷蔵庫からケーキを出して、テーブルの上の私を相手にティータイムを過ごしました。
ケーキを食べ終えると、ふと、女性の目から涙がこぼれ落ちました。
何があったのかわからないけれど、元気を出して。
私はあなたのために、明日の朝も可憐に咲きましょう。
・
私は花です。ガーベラです。
町の小さなお花屋さんに並んでいます。
私は今日、どなたのお家に飾られるのかしら。
そう思いながらお客様を待っていたけれど、誰も私を選ばないまま、私の花は色あせてきてしまいました。
明日はこのお店の定休日です。
一日仕事を終えたお花屋さんは店じまいをしています。
私はいったい、誰のために咲きましょう。
誰にも喜んでもらえないまま枯れてしまうのかしら…。
悲しい気持ちで下を向いていた私を、お花屋さんがバケツから救い上げ、手早く新聞に包みました。
私はお花屋さんのお家に飾られました。
少ししおれてきてしまった私だけど、お花屋さんは私を特別素敵な花瓶に生けてくれました。
そして、食卓の真ん中の特等席に飾り、愛情のこもった目で私をながめました。
ありがとう。
私はあなたのために、明日の朝もせいいっぱい可憐に咲きましょう。
終わり
〈絵と文/松本圭・物語制作2015年〉
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