夜の風に吹かれて
-
物語【夜の風に吹かれて】最終話
「あなたはたった1人でこの畑を?」「野菜を育てる暮らしが私の夢だったからね。景気が良い大きな町へ引っ越して行ったこの町の者たちは、私を偏屈な男だと笑ったよ。でも1人ではなかった。妻が一緒に残って私の夢につきあってくれたんだ」老人は嬉しそうにニッコリと笑った。
続きを読む -
物語【夜の風に吹かれて】第5話
この家の裏に畑があり、野菜を育て、ヤギを飼っている。時折隣の町まで出かけ、野菜を売ったり、他の食物と交換してもらう。「まれにあんたのような旅人を泊めてやると、金を置いて行ってくれることもある。どうやらあんたは文無しのようだが」老人はそういって笑った。
続きを読む -
物語【夜の風に吹かれて】第4話
すすめられるままに食卓に着くと、思いのほか清潔なその家の台所から、老人が暖かいスープと香ばしい香りのパンを運んできてくれた。幾日ぶりのまともな食事だろうか、私はパンをほおばりながら思わず涙を流し、スープを一口ずつ大切に飲んだ。
続きを読む -
物語【夜の風に吹かれて】第3話
私は明かりが灯った小さな家の窓から、こっそりと中を覗いた。もしかしたら、この町の人たちを追い出したならず者たちの隠れ家かもしれない。窓の隙間からは何やら良い匂いが漂っていた。スープの匂いだろうか…と、思わず味を想像しようとしたところで、ギィっと錆びた金具の音を立ててドアが開いた。
続きを読む -
物語【夜の風に吹かれて】第2話
星明かりを頼りに、かつては店だったと思わしき建物を見つけて、暗がりの中あれこれ物色したが、あめ玉一個も見当たらない。あてどない私の旅路も、このゴーストタウンで終わりを迎えるのだろうか?飢えて最後を迎えるなどとはなんと空しいことか。
続きを読む -
物語【夜の風に吹かれて】第1話
星が輝く夜空の下、ピューピューと風が吹いていた。この町は人っ子一人見当たらず、どうやらゴーストタウンのようだ。立ち並ぶ家や店に明かりはなく、澄んだ空の星明かりだけがあたりを照らしていた。半分壊れかけた建物の間を、ゴミや枯れた草が風に吹かれて、生き物のように飛んで行った。
続きを読む