幸せを紡ぐ物語

物語【eternity】

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昔々、ある国の王様と王妃様のもとに、かわいらしいお姫様が生まれました。
お姫様はすくすくと育ち、5歳になる頃には白く陶器のような肌にバラ色のほっぺ、ゆったりとカールした美しい栗色の髪を持つ、とても可愛らしい女の子に成長しました。

ところがある冬の寒い日、お姫様は突然ひどい高熱を出し寝込んでしまいました。
お姫様は熱に浮かされ、目を覚ますことなく三日三晩眠り続けています。
王様とお妃様はたいそう心配して、国中の名医という名医を呼んではお姫様の治療をさせようとしましたが、どの医者もお姫さまを治すことができません。
王様とお妃様は悲しみにくれながら眠り続けるお姫様を見守っていました。

そこへ、北の山に住む魔女が訪ねてきました。
魔女はお城の家来に、お姫様を治してあげるので王様に合わせるように、と言いました。
王様はその魔女が悪賢いという噂を風の便りに聞いていましたが、背に腹は変えられず魔女をお城に招き入れました。
「あなたは娘の病を治すことができるのですか?」
「ええ、ええ、できますとも。愛らしいお姫様を死なせるわけにはいきません。」
魔女はうやうやしく王様に答えました。
「私がこの姫に永遠の若さと永遠の命を差し上げましょう」
「永遠の命と若さ…」
「そうですよ。お姫様はこのままではもう3日と持たずに死んでしまうでしょう。
ですが、私の魔法で永遠の命を得れば、これから先ずっと元気に生きることができるのです。」

「永遠の…」
王様はしばし考えましたが、断ればお姫様は死んでしまうのです。
「どうか、娘を助けてほしい」
王様は魔女に頭を下げました。
「かしこまりました。王様」
魔女は大げさにお辞儀をすると、ベットで眠り続けるお姫様のもとへ行き、お姫さまの耳元にふうっと息を吹きかけるとなにやら呪文を唱えました。
するとお姫様は見る見る顔色がよくなり、小さく息を吐くとパッチリと愛らしい目を開けたのでした。

それから数年が経ち、お姫様は美しい年頃の娘に成長しました。
お姫様の美しさを噂に聞いたいろいろな国の王子さまが、お姫さまへの面会を求めてお城を訪ねてきました。
ですが、お姫様は誰とも会おうとしません。

見かねた王様がお姫様を呼び、少し厳しい口調で言いました。
「なぜ誰とも会おうとしないのだ。どの国の王子も素晴らしいお人柄だ。
会いもせずに追い返してしまうなど、なんと失礼なことか」

お姫様は少しの間考え込んでいましたが、王様にこう打ち明けました。

「私は幼い日に熱で寝込んだ時のことを覚えております。
私は目を開けられず、言葉を話すこともできませんでしたが、耳は聞こえておりました。
あの時魔女は私の耳元でこう言ったのです。
“お前に永遠の命と若さを授けよう。
そのかわり、この先お前が愛する男の命をもらうことにするよ。
お前とお互いの心を通わせ愛をかわした男は、その1日後に死んでしまうのさ”と」

「なんということを…」
王様は言葉を失いました。
「父上、私はどなたとも会いません。
どなたを愛することもいたしません。
私と愛し合った男性は…死んでしまうのです」
お姫様はそっとお辞儀をすると、うなだれる王様の前から姿を消しました。

それから長い月日が経ちました。
王様もお妃様ももうこの世にはいません。
お姫様は森の奥の小さなお城で、一人永遠の命を生きていました。
1日に一度、代々王様に仕えていた家来の孫にあたる女がお城を訪ねては、お姫様のお世話をしていました。

女はお姫様を不憫に思っていました。
「永遠の命など、憧れるものではないわ。
人の命には限りがあるからこそ、今を懸命に生きられるというもの。
たった一人で永遠を生きなければならないお姫様の、なんと哀れなことよ」

ある日、お姫様がいつものようにお城のまわりを散歩していると、草むらのトゲが足に刺さり動けなくなってしまいました。
「まあ、困ったわ」
このままではお城に戻ることができません。
少し行ったところに泉があるのを思い出したお姫様は、痛む足を引きずって泉のほとりまで行きました。
足を泉の水に浸して癒していると、一人の若者が現れてお姫様に話しかけました。
「お嬢さん、どうされましたか?お怪我でもされましたか?」

誰にも会わないように暮らしていたお姫様ですが、足を怪我した状態では逃げようにも逃げられません。
「大丈夫でございます。」
そう答えながら顔を上げたお姫様は、心配そうに自分を見つめる若者の顔を見ました。
若者もお姫様の顔を見ました。

2人は恋に落ちました。

お姫様を抱きかかえ、お城まで連れて帰ってくれた若者にお姫様はいいました。
「ありがとうございます。このご恩は忘れません。
ですが、どうぞあなた様は私のことは忘れてください」
「あなたはこんな寂しいお城でたった一人で暮らしているのですか?
あなたをこのまま一人で置いて行くことなどできません」
若者はお姫様をそっと抱き寄せようとしました。
お姫様は一瞬若者の胸にほおを寄せようとしましたが、慌てて若者を払いのけ、思わず涙を流しました。
何か事情があることを察した若者は、森の中のお城を見守れる場所で寝泊まりし、朝になるとお姫様を訪ねました。

「ああ、永遠の命なんかいらないわ。あの人の愛を受け入れられたなら…」
ある晩、1人思い悩むお姫様を見かねて、お姫様のお世話係の女が言いました。
「お姫様、私の祖父に聞いたのですけれど、魔女は北の山に住んでいるそうです。
あなた様の魔法をとくこともできるのはあの魔女だけだと、王様がお話しされていたそうですよ」

お姫様は翌朝、まだ日が昇りきらないうちにお城を後にしました。
若者には内緒で、1人北の山を目指したのです。
お城でしか暮らしたことがなかったお姫様が山道を歩くことは、なんと過酷な道のりだったことでしょう。
ドレスは泥だらけのぼろぼろになり、可愛らしい足をキズだらけにしながら、お姫様は北の山の魔女のお城へたどり着きました。

「おやまあ、久しぶりだこと。前に会ったのは100年も前のことだね。
どうだい、このボロボロのドレスは?」
といって、魔女は笑いました。
お姫様は魔女の言葉には答えずに、懇願しました。
「魔女さま、お願いです。私の魔法を解いてください。
私は永遠の若さも永遠の命もいりません。ただ、あの人の愛を受け取りたいのです」

「まあ、私が幼いお前の命を救ってやったと言うのに、なんという生意気なこと。
いいだろう。お前の魔法を解いてやろう。
だけど、お前はもう100年も生きているのだ。
魔法を解いたら命の期限はあっという間に終わってしまう。
お前に与える時間はたった1日だよ。それでもいいのかい?」

お姫様は青い顔をして魔女の言葉を聞いていました。
そして、震える声でこう答えました。
「魔女さま、私はあの方の愛を拒んで永遠を生きたいとは思いません。
たった1日でも心の底から今を生きることができれば…」

魔女の魔法を解かれたお姫様は、疲れた体にむち打ちながらお城への道を急ぎました。
お城へ戻ると、若者とお世話係の女がたいそう心配してお姫様のことを待っていました。
「どこへ行っていたのです?なんという姿になって…怪我もしているのではないですか!」
若者は大きく腕を広げ、倒れ込むお姫様を抱きしめました。

お姫様は温かい風呂で傷を癒し、お世話係の女が作ってくれた心のこもった料理を若者と一緒に食べました。
食事を終えると、暖かいお茶を飲みながら2人は肩を寄せ合い愛を語りました。
暖炉の日が赤々と燃え、お姫様の頬を幸せそうに赤く染めていました。
その晩、お姫様は若者の胸に顔を埋め、一生で一度の幸せな今を過ごしました。

朝、若者が目覚めるとベッドの隣にお姫様はいませんでした。
若者はお姫様がもうこの世にいないことを静かに悟りました。

たった1日、今を生きたお姫様の愛は、若者の心の中で永遠に輝き続けました。

終わり
〈絵と文/松本圭、制作/2015年4月〉

☆お読みいただきありがとうございました☆

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