幸せを紡ぐ物語

物語【citrus】最終話

citrus

夕方、最後のフェリーが出る時間がやってきた。
僕は思わず
「この島に住んじゃおうかな」
とつぶやいた。
女の人は僕のほうを見ずに、ただ海だけを見ながら言った。
「この島は死人が住むところじゃないわ。生きた人間が住むところよ。死人は墓場に帰りなさい」
住んじゃいなよ、という言葉と無邪気な笑顔を期待していた僕は、あっけにとられて女の人を見た。
「生き返ったらまたおいで」

あれから1年が経った。
まだまだ絶好調、と言えるほど毎日が充実しているわけではないけれど、とりあえず死人のような顔ではなくなったはずだ。
それなりに人間らしい生活を送っている。

フェリーが島に着き、不安定な海の上から大地に足をつけた
海から島へ吹き抜ける風は、まだ初夏にも早いと言うのに、夏の匂いがした。

夏の匂いに混ざって、どこからかあの懐かしい、爽やかな柑橘の香りがかすかに漂った。

終わり
〈絵と文/松本圭〉

☆お読みいただきありがとうございました☆

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