幸せを紡ぐ物語

物語【citrus】第1話

citrus

島まで約30分の船旅。
甲板で風に吹かれながら、1年前のことを思い返していた。
1年前の僕は、人生に疲れて、人生をあきらめていた。
ある朝荷物をリュックに詰め込むと、誰にも何も言わずに、一人暮らしのアパートをあとにした。
その時の僕はすでに会社も辞めていて、恋人も親しい友達もいなくて、僕がいなくなったところで探してくれる人もいなかった。
そして、今日と同じようにこのフェリーに乗ったのだ。

あと15分もすれば目的地の島が見えてくるだろう。
1年前のあの日は、いっそこの船から身でも投げようかと言う、やけくその心境で短い船旅を過ごし、フェリーを降りた。
まるでずいぶんと昔のことのようだけれど、あの日不安定な海の上から大地に足をつけたとたん漂ってきた、爽やかな柑橘の香りは、まるで昨日のことのように思い出される。

島のフェリー乗り場のすぐそばに、小さなジューススタンドがあって、女の人が一人で搾り立てのジュースを売っていた。

…第2話へ続く
〈絵と文/松本圭〉

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